2014年3月10日月曜日

キッチンの女王

オムレツの練習をするために冷蔵庫から出した卵を、扉を閉めた拍子に床にほうってしまった。ぺちゃ、という間抜けな音がした。手の中にはひとつ卵が残っていたので、だめにしてしまったほうの卵を片付けてから丁寧に割って泡立て、バターで焼いた。やはり卵がひとつでは厚みが不十分だったが、焼き色は今までで最高だった。

一日中手先はおぼつかず、包丁で左手の薬指の端を切った。にんじんの色と見間違えるより先に、まないたに付いたのが血だと気づいて、しまったと思った。絆創膏が戸棚にない気がしたので、一昨日使っていたカバンの内ポケットから、しなびたのを見つけ出して貼った。私は使ったものを定位置に戻さないかわり、どこに何があったかは一瞥して忘れないのである。

続けてトマトを湯剥きし、つぶして種を掻き出した。本当なら包丁で切ってスプーンを使うのがうつくしいが、特に構わなかった。手はトマトでぐちゃぐちゃになり、例によって味見がめんどうなので味付けに難儀したが、トマトソースの出来はなかなかだった。いつだって、うまいものは自分の手を汚して手に入れるのだ。

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