2014年3月14日金曜日

サボテンの消失

あまりに私が落ち込んでいたので、母が古い指輪を持ってきた。返さないつもりで借りてはめた。この年齢になると、古い指輪も違和感なく肌になじむ。母は私を、自分の祖母に似ているという。理由を尋ねると、怪我を処置してくれるとき「痛い」と言っても無視してやめないところとか、どくだみ茶を飲んだりしているところ、と言われた。ちなみに母には表立って言ってはいないが、稀に煙草を吸うことがあるのも曾祖母(=母の祖母)と私の共通点である。隔世で、会ったこともない人に強く似て生まれることはきっとあって、でもそのことを知っている人はもうこの世に誰もいないのだ。

近所の家が取り壊しをしている。その家の玄関には、びっくりするくらい背の高くて太いサボテンがあって、クリスマスのころなどは手作りのフェルトオーナメントが下げられ、非常に可愛らしかったのだが、彼もとうとう倒されてしまった。初めは、中心くらいの高さでぼっきり折られ、そのまま痛々しい姿を数日さらされたあと、根本から抜かれた。遺体はしばらく崩れかけの玄関の前に横たえられていた。昨日、サボテンを見るために家の前を通ったら、そこはすでにほぼ更地と化していて、サボテンの肉片がわずかに、門だった場所の手前に散らばっているだけだった。この土地に引っ越してきたときの道行きの、最初の目印であったサボテンがしんでしまって、今はとても悲しい。

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