2016年8月14日日曜日

小休止Ⅱ

犬島まで行くことになった。直前まで悩んだ。行く道はいいのだが、帰りの船がどうしてもないからである。船とバス、あらゆる時刻表を熟読玩味して、結局、岡山駅にゆき、そこに宿を取って翌日また小豆島の土庄港へ帰ることとした。坂手から土庄までは車で30分はかかる道のりなのだけれど、そこさえ何とかすればあとは交通手段が明確に定まっていたからである。犬島では、おみやげに鉛筆を3本買った。翌朝、岡山駅からはるばる土庄港まで帰り、マスターからの買い出し依頼にも何とか応えて、坂手まで戻った。

その日の夕方は、大部港に行った。きみちゃんが軽自動車で連れていってくれたので、行くことができた。そうでなければ行くことができなかった、と言ってもいいほどの山道で、途中は岩石の採掘で山肌がはでに剥き出しになっていた。きみちゃんはそれを見て「ここ、県に無断で採掘しよんねん。現状復帰命令出とるけど、無理やんな」と言った。こんなはでな採掘を無断でしていいのか、いや、だめだから行政処分がくだっているんだろう、と思った。大部港について、造船所跡で演劇を観た。客席では子どもがかき氷をたべ、犬が伏せてまどろんでいた。太陽と同じように、月も水平線に沈むということは知っていたけれど、それを見たのはその日が初めてだった。

海運業の青年がまた来て、マスターとしばらく話をし、みんなで隣の隣の隣くらいの町にあるカレー屋に行こうということになった。運転は青年がしてくれた。その帰り道に、旅行中の若者をひろって車に乗せたり、スーパーマーケットに寄ってもらったり、いろいろあったのだけれど、喫茶まで送り届けてもらったあとで一緒に行った大学の四回生が、iPhoneをなくしたと言い出した。喫茶のどこにもないと言う。もしかして、と彼女が言うので、先ほど交換した青年の名刺の先に電話をかけ、後部座席に落ちていないか訊ねると「ありましたよ」と折り返しがあった。それで四回生とふたりで、自動販売機の近くのガードレールに腰掛け、青年が戻ってきてくれるのを待った。迷惑をかけることを恐れない。そう思いながら、ふたたび現れた車の青年に「本当にありがとう」とお礼を言った。普通ならここで相手は「見つかってよかったですね」などと言うだろう。しかし青年は開口一番、にこやかにこう言った。「あのな、島でiPhoneなくしたってどうってことないんよ、絶対に見つかるもん」。島の面積を、みずからの身体感覚に引き寄せた物言いに、思わず感動したけれど、それを伝えることはできなかった。

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