世田谷パブリックシアターの会議室。七日間にわたった批評課の最終日、わたしは、偶然残っていた中学生演劇部古参のミス・カチューシャ、中学二年生ながら華麗なファッションでみんなを魅了するミスター・ジャケット、ワークショップ内で行ったインタビューでその才能を開花させたミス・インタビューの三人に話を聴くことにした。
柏木陽 さて……俺がいない方が好きなこと言えるだろ?(部屋を出て行く)
藤原ちから じゃ僕も……あばよ。またどこかでね〜。
ミス・インタビュー あ、あの……! どっかで会ったら、こんにちはって言っていいんですか?
藤原 え……? もちろん。
イ 「仕事モードの時は話しかけるな!」とか言われんのかなと思って……。
藤原 なんでよ(笑)。大丈夫だよ、道ばたでも劇場でも。じゃあね〜。
藤原、去る。
部屋には中学生三人と、落だけになる。
― じゃあ始めます。まず、どうして世田谷パブリックシアターのワークショップを知ったの?
イ 演劇のワークショップやってみたいなと思ってネットで探したんだけど、今まで都合が合わなくって、やっとこないだの冬、第三期に来れたーっていう感じです。だからこれが二回目。
ミス・カチューシャ んっとねー、わたしは、最初は演劇やりたくて、劇団探して! 事務所探して! っていう勢いだったんだけど、お母さんがここのワークショップ見つけてきて、いいんじゃない? 最初はこういうところからスタートしてみれば? みたいな感じになって、行ったらハマっちゃった♪ みたいな(笑)。
ミスター・ジャケット 僕は、急に演劇がやりたくなった、というか……。
― え、すごい。どうして?!
ジ わかんないんですけど……そういうのないかなって急に調べ始めて、家の近くに劇団があって、そこに行こうと思ったんですけど、いい感じに毎週予定が入ってて、そこはあきらめ……。で、いろいろ調べて行くうちにここに辿り着いて、一番近い時期のワークショプが冬の第三期で。だからミス・インタビューと同じタイミングで始めました。
▼わかること・わかんないこと1
― 今回はタイトルに「演劇部 批評課」って付いてたじゃん。「批評のワークショップ」ってやってみてどうだった?
カ 正直、いつもだったら「戯曲からやってみよう」とか「登場人物つくろう」とかそういう系で、わたしは演じるのが好きだから、「批評」って違くない? って思ったけど、まあおっさん(=柏木陽のニックネーム)の名前書いてあるし、これは絶対なんかつくるなーと思って、いいなーって思って来た(笑)。てか、おっさんの名前じゃなくても来たと思うけど、来た♥︎
イ え……あ、あの、何かすごい、失礼なんですけど……批評家ってちょっと正直うさんくさいなとか思って……。だってその、ごはん食べていけるのかなとか思って……何してるのかなとかよくわかんなくて。うさんくさいならうさんくさいなりにちょっと見てみようかなと思って……す、すいません……。
― それおもしろーい! おもしろーい! 実際会ってもよくわかんなかったでしょ?(笑)
イ あんなことしてて、生きていかれるの……?(みんな笑う)今さんざん親から将来のこと、進路決めなさい、とか資格を取れるような仕事につきなさい、とか言われてる中でこういうオトナを見ると「え、ええー……?!」ってなるのはちょっとあります。
ジ そうですね……僕は、「批評って何だろう?」っていうところから始まって、チラシの演劇部批評課っていう文字を見た時に、「批評」より「演劇」に目が行って……。正直、今現在あんまり、パッとはしてないんですけど……でも批評っていうものがわかってなくても、自然とやってたんじゃないかなって。劇つくったりする中に、自分では意識してなくても批評っていう要素があったんじゃないかと。
― 「パッとしない」っていうのは「批評」って何だかよくわかんないってこと?
ジ そうですね。
イ やだー、話が難しいよー(笑)
カ やーなんかー、ていうかー、このワークショップ全部わかんないから、もう、普通(笑)。
― 普通?!
カ なんかね、人生で初めてやったワークショップがトバズニハ(伊藤キムにより結成された中高生パフォーマンスグループ)だったの。で、キムさんの時点でわけわかんないし、中学生演劇部来ててもいつもわけわかんないし、で、今までもいろいろやったけど、全部わけわかんないし、でもわけわかんないの好きだから、この批評課もわけわかんなくて、たのしい(笑)。だからね、もうわけわかんないの当たり前? で、わかると逆に「あ、わかっちゃった」みたいになるから。わかったことないけどねっ(笑)
― でもさ、わけわかんないのと、内容が難しくて理解できないのとはちょっと違うじゃん。今回はどっちだった?
カ 何ていうか、「批評って何?」って訊かれて、「ちからさんは『愛と距離』みたいなこと言ってたよーん」ってことは言えるけど「えー?しらなーい」みたいな?「でも楽しいよー!」みたいな感じ?(笑)
ジ 実際楽しかったんですよ。
カ そ、楽しいもん。
― パッとしなかったけど楽しかった?
ジ 楽しかったです。
カ だってパッとしないのはいつもそうだから!
― (笑)
イ でもすごい自由にやらせてもらった気がする。おっさんとかちからさんは、質問を投げかけても、「こうした方がいいよね?」みたいな裏のニュアンスを含んでない。「こういうのもあるし、他の案もあるよね。どっちがいい? どうする?」って言ってくれるから。さっきおっさんが演劇にもいろいろあるって言ってたけど、すごくいいところのワークショップに来てたんだなって思った。
▼演じて応答するということ
― 今日、『地域の物語』という公演をつくった人たちの前で、別の作品をつくって演じて返すってことをしたじゃない? そもそもそういう応答の仕方って例がないと思うんだけど、みんなも初めて?
カ そうだね、初めてかな。
― 緊張した?
カ いやあ……。
イ え、めっちゃ(してたじゃん)。
カ 違う違う、緊張するのはいつでもそうなの! 始まる直前にウーッてなるんだけど、それは相手に返すからとかじゃなくて! だって、返すけど、もううちらの作品になってるから、それを見せるだけだから、あんまり緊張しなかったけど……。正直言うと、(『地域の物語』出演者の)ヨウコさんとかシラさんとかにインタビューした話をやった(作品内に取り入れた)じゃん。それが、ちょっと……まあ別にいいと思うけど、違うふうに受け取っちゃってたら、ちょっと……どうなんだろう、って……ヨウコさんとかシラさんの反応見ちゃった。
イ わたしも〜。めっちゃ顔見た〜。
カ だからそれはあるけど、でもそんな特別! みたいのはなかった。
世田谷パブリックシアター学芸スタッフの“にらだい”がお菓子を持って来る。にこにこして、邪魔しないように去って行く。
カ あ、マッカデミア〜♪ 開けてい?
― そっか。でもその後皆さんからその場で感想もらったじゃん。それはどう思った?
カ (マカデミアチョコを食べながら)ほっとした。「あたしこんなこと言ってないけど」とか「そういうつもりじゃないんだけど」じゃなくて、ちゃんと見てくれてるなって。よかった。
ジ 発表のあと、みんなちゃんとコメントくれたのがすごいうれしかった。
― そうだね。相互的な感じがすごくしたよね。
▼中学生から見た「批評」
― 演劇を演劇部でやるっていうと、みんな出るつもりで来てるんだよね? だけど今回は『地域の物語』の感想文書いたり、出演してた人にインタビューしたり、いろんな演劇との関わり方を体験できたと思うんだけど、面白かった?
カ やっぱり文章は苦手だなって思った、ヒヒ(笑)。だから、ちからさんとかおちまき(落雅季子)さんとかすごいなって思って。ある人の話を演劇にしてください、って言われたら出来るけど、感想書いてくださいって言われたら無理だ、ウェーッてなった。
イ 最初は演じる方が面白いなーと思ってたけど、文章書いて組み立てたりとか、ここはもうちょっとこうしたほうが……とか考えるのもすごい面白いなーと思って。わたし、文章書くのそんなに嫌いじゃないんですけど、でも書いてるとこう、型にはまる感じがしてきて……でも今回いろいろやって、もうちょっと違う形もあるのかなとは思いました。
ジ やり始めたら書けるんですけど、自分からやろうとはあんまり思わなかった。でも自主的に書こうっていう気持ちを、強引ではあるんですけど、引き出してもらって、また新しい見方というか演劇の感じ方があるんだなって思ったりしました。
― あたしも中高大学と演劇をやってたんだけど、卒業して会社員やって紆余曲折経て、今は劇評を書くということがいちばん自分にしっくり来てるのね。結構回り道してるというか、だから演劇とのいろんな関わり方があることを伝えられたらそれだけでよかったかなって思うんだよねえ……。でも「批評課」って付いてるから何か書かされるんだろうなっていう予感はあったでしょ?
カ なかった(即答)。
― なかった?!
カ だって、だってさあ! あれだよ?! チラシに「柏木陽」って書いてあったから!(笑)まあちからさんの名前もあったけど……ちからさんに最初に会ったのはキャロマグの座談会(vol.6の中学生演劇部特集)の時だったんだけど、そん時のちからさんの印象はね、「おもしろい人」(笑)。
イ マスクちゃん(ワークショップ参加者のひとり)がやくみつるに似てるって言ってた(笑)。
カ・ジ (爆笑)
カ 座談会の時はただ話しただけだから、文章のイメージがなくて。何かねえ、そこまで「えっ、書くの?!」とはなんなかったけど、「ま、批評だし、やるのか……やんのか」みたいになった。でも全然ホントに、書くと思ってなかった。
ジ 僕は若干覚悟はしてた(笑)。
イ あたしは書くかなーとは思ってたけど、そこまで嫌いじゃないから、ここでいいの書けば褒められるかなあ〜うふふ〜、みたいのはちょっとあった(笑)
― 実際批評家であるちからさんって、どんな感じに見えた?
カ すごい優しい人!
イ え〜! 絶対に裏では、フフ……みたいなとこある!
カ でもさ、おっさん(=柏木陽)はさ、優しいけど怖いっていうか、ヘンでしょ! にらだいもお菓子買って来てくれたりして優しいけどヘンじゃん。で、最初に会った(伊藤)キムさんも相当ヘンだったから、ちからさんに会って「お、ちゃんとした人だ〜普通の人だ〜」と思って(笑)でもねえ、ちょっとねえ、何かねえ、隠してるとこはありそう!
イ だって普通の人だったらこんなとこ居られなくない?
カ うん。そうだね。
― こんなとこって……?
イ 批評とか演劇の世界。
カ あとおっさんとも話が合ってるしね。
イ おっさんと普通に話せる時点できっとヘンだよ。
ジ ちからくんって、よくわかんないけど、おもしろいんですよね……なんか会いに行きたいっていうか、話を聴きたい……よくわかんないけど、また批評課をやるなら聴いてみたい。
― 話長いけどいいの?(笑)。二日くらい前にすごい批評家モードになってベラベラ喋った日あったじゃない。終わってから振り返りの時間にもすっごい喋ってたから、あれ。
ジ (爆笑)
カ 部屋の外まですごい聴こえてた!
ジ 突っ込めばすごい話を聴いてくれそうな人だなって思う。
― いつかお酒とか飲んだらいいんじゃないかな。もう、すごい飲むよ……。
ジ 飲みそう〜(笑)。
にらだいが突然現れ「ちからさんたちどこ行った?」と言いながらじゃがりこを自然につまみ、一本食べて風のように去る。
イ あ、食べてった。
カ やっぱヘンな人だよ〜。食べ方もヘンだよ〜、ウケる〜。
イ あたしも食べよ〜。
― いつもの演劇部と今回の批評課では何か違うなってことはあった?
カ え、何かね、動かない。
イ あー、お尻が痛くなったね。
カ あと宿題? これまでもある時はあったんだけど、何か今回はちゃんと形にしてくる宿題だった。いつもは「考えといて〜」とか、そういう感じのノリで、文章でちゃんと提出して読む! みたいのはなかったから、ちょっと「ウヒ?」ってなった。
― 期限も厳しかったよね。
カ 次の日だもん(笑)。
イ 眠いし(笑)。私、朝書いたりしてた。
カ 私も朝書くこと多かった。前日の帰り際にだいたい文章考えてて、家帰って書くの忘れて、寝て起きると、その当日より客観的に思えるからちょっと直して、みたいな。
― それって演劇の台詞とか振りを考えて来てっていうのと一緒な感じ?
カ 文章にするのはね……なんか違った。なんかね、いつも演劇やる時のイメージは……「わちゃわちゃわちゃわちゃ〜♪うひょひょひょひょ〜♪」だけど、今回は「うひょひょひょひょ〜♪」の前に、ちょっとキチッとした感じがあって、「うひょ? キチッ! うひょひょひょ〜♪」みたいな感じ。で最後は「うひゃー!」みたいな感じだった。
― その「うひゃー!」は発表のこと?(笑)
カ そ(笑)。
イ でもライブくん(※ワークショップ参加者のひとり)の感想文は、ああそんな形で来たんだって思ったよね。文章じゃなくて、絵とか図だった。
― それをまさにミス・インタビューが朗読することになったよね。
イ 来るなって思ってた。あの順番だと絶対あたしのとこで止まるなって思ってたらホントに来ちゃって。
カ あれ逆に当たりじゃない? おもしろくない?
イ そうは思った。やればそれだけで何かになるから当たりは当たりだけど。
― 読み終わった後に「ちょっと私の意見とは違った」って言ったよね。そこをちゃんと伝えて良かったと思うよ。ライブくんも一瞬ウッとなってたけど、飲み込んでたよね。
イ そう、だって……違うから。いつもだったら言わない気がするけど言っても大丈夫かなって。わかんないけど、もしかしたら家で泣いてるかもしれないけど。
― 何で大丈夫だって思ったのかな?
イ 場所が場所だし……彼も……言っても大丈夫、人としても大丈夫だし……批評課だし……言っても受け止めてくれるかなと思いました。
ジ それ自体「批評」な感じがする。発信する側の感覚があって、受け取った側からの批判と共感があって、何か違うことが起きる、みたいな。
イ 後で帰り道に「やっぱさーあたし嫌いなんだよねー」って言うのは批評じゃないと思う。相手がいて、伝えるつもりで言ってるんだったら批評だけど、「やっぱさー違うしー」って裏で言うのはただの意見。
― ちからさんに聴かせたらそれ、にやにやして喜ぶと思うよ。
イ ……それはちょっと何かやだ(笑)。
▼高校生になったら
― 高校生になっても演劇はやりたい?
カ とりあえず、世田パブのワークショップには来る♥︎ 最初は演劇科がある高校に行こうとしてたんだけど、親とも話し合って、一番演劇ができるのは今選んだ学校だなと思って。なんか、すごいたくさん演劇やるの。授業で。演劇部はないんだけど、でも面接の時に「ぜひ演劇部つくってください」って感じだったから「あ、はーい」って(笑)。演劇部つくりたいんだけどさーって言ったら入ってくれそうな子もいて。
イ あたしは中高一貫で、部活とかが変わるわけじゃないので、演劇部も一応あるんですけど今から入るのはちょっとアレかなーってのがあって、演劇やるのは学校じゃない場でもやれるかなって思って。さっき振り返りの時におちまきさんも言ってたけど、情報収集を怠るのはそれこそ「怠慢」なので(笑)
― あれはパズドラの攻略方法をネットで調べるかどうかって話です(笑)。
カ でもおちまきさんパズドラやってそうなイメージ。あ、わっかるー♪ って思った。CMに出てそう。
イ あー!
ジ 出てそう!
カ ね、わかるでしょ? こうやってこうやってんの(スマホ画面を操作しているマネ)。
イ わかるわかる! 斜め下くらいからの(アングル)。
― そんなこと初めて言われた……。
カ きゃはー!
イ (それた話を戻す)や、まあ何かそれでがんばって探していけば、やれないこともないかなーって思った。でもなかなかネットで検索しても情報が出てこなかったりとか、終わっちゃったワークショップの感想とかが出て来て、そこは私もがんばんなきゃいけないなーって思うけど。
ジ うちも中高一貫で、演劇部がなくて……部活は剣道やってるんですけど、それもそれで楽しいし、それとは別でワークショプ探してみたくて、ここ以外のも体験したくて。さっきのおっさんの「世の中にはおもしろい演劇だけではなく、おもしろくないものもある。いろんなものに触れてほしい」って話もそうですけど、一回若干おもしろくなさげなところにも行って、それでもう一回ここに戻ってきた時にどう感じるのかなって思ったりもして。あと、何だろう……自分たちだけで、やってみてもいいんじゃないかなって思ってます。
▼わかること・わかんないこと2
― 二日目に、いろんな作家の文章を声に出して読んだじゃん。結構難しい文章もあったけど、意味わかった? 石原吉郎とか宮本常一とか、すっと入ってこない文章が多かったと思うんだけど。
カ や、なんか、普通だった。
― 普通?!
カ や、難しいけど、その文章について感想書けって言われたらちょっとヤだけど(笑)、これの芝居をつくりたい、みたいな。感想書くのは無理だけど、芝居つくってって言われたら楽しそうだな〜って思ってた。みんなの聴きながら。
― あの朗読おもしろかったもんね。
カ おもしろかった!
ジ 今回の批評課自体たぶん「わかんないけど付いていった」感じがすごい、演劇してるな〜って感じだった。なんだかんだ突破してきたのを、身体ですごい感じたというか。
カ でもね、結構あとあとになって、何かわかる時がある。前のとかで「あ、これあたし知ってる♥︎」みたいな。やり方とかじゃなくて気分的に。「これ知ってるわ〜出来るわ〜」って、みんな周り戸惑ってても(笑)。だからこの批評のやつも、そうなりそうな気がする。
ジ うん、絶対糧になりそうな気がする。
イ ダメにしたくないよね。七日間もここにいたから。そういう経験を。「ああやったね、終わったね」じゃなくて。あとあとに持って来るというか。持って来るのは私たちだから、誰かが持って来てくれるわけじゃないからそういうのはがんばんなきゃいけないなって。
ジ 七日間で身体にインプットされて、感覚をさ、何だろう、思い出すというかそういう作業がこれから必要なんだと思う。
イ 学校の生活に戻れるかな……(笑)。
― またこの批評課ワークショップあったら来てみたい?
カ 批評課であることもそりゃそうだけど、高校生が出てもいい世田パブのワークショップだったら何でも行く♥︎
― 宿題書かされても?
カ 行く♥︎
▼大人になっても演劇やる?
― 大人になったらどうなるんだろうね。
イ それ思うー。
― 大人になっても演劇やる?
カ え、やりたいー。
ジ でもおちまきさんの場合逆じゃないすか?
イ 逆に訊きたいんですけど、演劇部に入ってたのに、なんで普通の仕事につこうと思ったんですか? いったん演劇から離れて会社員になったんですよね?
― そう。「やたら演劇を観てる会社員」になった。
イ それってすごい何かこう、嫌っていうか悔しいっていうのなかったですか?
― 何だろう……まず、そんなに自分に役者の才能がないと思って、役者をやることはありえないと思ってたわけ。演劇は好きでずっと観てたんだけど、結局やりたいのが文章を書くことだったのよね。だから、演劇について、言葉を尽くして書くことをいちばんやりたいと思ったの。ずっと一人で細々書いてたんだけど、ある時期に藤原さんと出会って、一緒に仕事するようになったんだよね。いろんな偶然と必然が積み重なって今があるから、ホントに何がどう転ぶかわかんないなーって思うの。一直線に「劇評書く人になりたい!」と思ってたらたぶんこうなってないの。
三人 ふーん……。
― もちろん、まっすぐ俳優とか演出家を目指すのもすごくいいと思うんだけど、いろんな道があるよ。ミス・インタビューも、人の話聴いたり、体系的にいろいろ考えたり出来ると思うから……初日に「ドラマトゥルク」っていう役職の話をしたの覚えてる? そういう勉強とかもおもしろいかもしれない。
イ ああ……でもわたしシラさんと話した時も、一生懸命すぎてシラさんの目しか覚えてなかったんですよ、ほんとにもう……。
― そんなもんだよ、音声は録音しておけばいいんだよ(笑)。
イ ありがとうございます。
― 今日は遅くまでありがとう。気をつけて帰ってね。またいつか批評課で会えるのを楽しみにしてます。
三人 はーい。
子供たち、帰る準備を始める。
カ (チョコの箱を覗きこんで)ねえねえ、何で最後の一個食べないの?
イ 最後の一個はみんな食べないんだよ〜。
カ えっ何で〜?!
― 食べなよ(笑)。じゃがりこも持ってかえんな。
カ いいの?!……やったね♥︎
帰る準備をして、全員部屋を出る。
落、エレベーターを待っている時に、ミス・インタビューのリュックに徳永京子・藤原ちから『演劇最強論』が突っこんであるのを発見。
― あ、『演劇最強論』。
イ そうなの……いちおう、持ってきてた。
カ えっ何これ? (手を伸ばして本を取り口絵をぱらぱら見る)あっ、ままごとだ。読みた〜い貸して〜。
イ これ図書館のだから……。
三人はわいわい言いながら去っていく。(完)
(聞き手・構成:落 雅季子 2015.04.04)
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