2016年8月19日金曜日

ある日(劇作家)

夕方、花壇のバジルに水をやっていたら「バジルペーストの1人前って、葉っぱどれくらいあればできるんですか」と劇作家に訊かれた。バジルペーストは、葉とオリーブオイルと塩をミキサーにかけてつくるけれど、そうするとかなり嵩が減ってしまう。正直に「花壇のここからここまで葉っぱをとって、1人前ですかね」と言ったら劇作家は驚いて「そんなに少ししかできないんですか」と言ったので、つい「いや、もうちょっとたくさんできるかもしれません」と訂正してしまった。

夜になってから、劇作家がまた喫茶に来て、仕事をしながら少しおしゃべりしていった。
「カレーは700円で売ってるのか」としみじみ言う。「100杯売っても7万円にしかならないんですね」と相変わらず身もふたもない物言いをするのがおもしろく、好ましい。 今朝、クリームソーダが早々に売り切れてしまって、それはメロンソーダの上に乗せるラクトアイスが品切れになってしまったからだった。盆が終わるまで、島の酒屋にアイスは入荷しない。「島じゅうのアイスをクリームソーダに乗せてしまったわけですか」と劇作家は笑った。確かにそうだった。島の外からアイスを運んでこないと新しくクリームソーダはつくれない。「そう考えると島は不便っすね」と話を聞いていた朝日が言った。「でも日本全体で考えたってアイスクリームの材料を外国から運んでこないといけないわけだから一緒でしょう」と、あいかわらず劇作家は、世界の縮尺を自在に伸び縮みさせる。朝日が続けて脈絡なく「小豆島に映画館ってあるんですか」と訊ねた。答えは否。島の人が映画を見るためには、船に乗らないといけない。店を閉めてから換気扇を掃除してくれた朝日に、何かおいしいものでもつくってあげようと思って、たべものは何が好き? と聞いたら「ラーメンっす」と言われた。朝日はそういう子である。ラーメンは、さすがに私でもつくれない。

明日は満月という日で、胸がざわざわして眠れなかった。車を借りてひとりで買い物に出たので、帰りに浜まで月を見に行った。東の空に真珠色をしてのぼった月は、西の空に珊瑚色となって沈む。

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