2013年10月8日火曜日

秋の妹

妹が家まで訪ねてきた。珍しいことである。私の家には人が来ない。いつも私が人の家まで行く。自分の家は物(紙と布)が多いし、狭い空間に人とどう距離を保っていいかわからないし、自分のベッドで人と寝るのが好きじゃない。寝心地はいいけど。妹は「トトロのお父さんの机みたいな部屋だね」と謎の感想を残してから、駅前のパン屋で買ったドーナツをひとつくれた。かわりに文庫本を一冊あげた。彼女はいきなり後書きから読んで「おもしろそう」と言って帰った。

「そんな根本的なこと考えてたら、病気になるよ」と言われたことを執念深く思い出している。そのときその人はメビウスと名前を変えたところのマイルドセブン(もう変わっていたっけ?)をもみ消して、カフェは4Fの喫煙フロアしか空いていなくて、私はもう窒息しそうだった。何でこんな席に座らされているんだろう、と相手を恨んだ。そのあと、いくつか大事なものの話をしたけれど「それを貫くことと引き換えにするもののことをきちんと考えていればいいよ」と確か言われて、考えているわ、引き換えにすることに、私は何のためらいもないわ、と思っていたのだった。

自分のことなら嘘もつける、という歌詞がとても好きで、何でかというと、事あるごとに「ああ、本当にそう」と思うからだ。自分のことは自分でわからないから何を言っても嘘か本当かわからないし、自分との境界がとても薄いように思われて今にも融解しそうな事柄について何か隠し立てすることに、罪悪感を覚えたことがない。

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