祖父が夢に出てきたことは、記憶にない。死ぬ直前よりもずいぶん若い姿で、彼は庭のほうから歩いて来た。その時私がいた場所はもう何年も前に取り壊してしまった祖父母の家で、縁側で祖父をじっと見ていたのだった。部屋の奥には祖母もいて、しかし彼女は、病を患ってベッドに臥せっていた。手を差し入れたベッドの中で触れ合った祖母の指の細さにぎょっとした。彼女はずっと無言だった。急に、廊下のほうで、弟の泣き声がした。私の弟は三歳くらいの姿で、涙を振り飛ばして泣いていた。よく聞くと弟は泣きながら「またみんなでおうちでおひるごはん食べたい」と言っている。弟を抱きしめて、頭をなでてなぐさめて、私も一緒に泣いて目が覚めた。起きてから、弟が三歳だったころの幸せな風景をいくつか思い出して、今自分のいる場所がそこからどれほど遠い場所であるか、考えてみるまでもないと思いながら現実でも少し泣いた。
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