「おかえり」と言われることがなくなってずいぶん経つ。両親の家に行くと「いらっしゃい」と言われる。そんな両親の家には、近所に住む子どもがときどき遊びにくるらしい。去年、夏に母が抹茶の水ようかんをあげたところ、少年Kはたいへんにそれを気に入って、今年もそれとなく、母に「水ようかん、ある……?」と訊ねたようなのだ。その水ようかんは、確か去年わたしが手みやげに持っていったもので、つまり、たまたま実家にあったものなので、母は「ごめんなさい、今はないの」とKに謝ったそうである。
その話を聞いて一念発起した私は、電車に乗ってデパートに向かった。次に少年Kが遊びにくるまでに、何としても抹茶の水ようかんを手に入れなければならぬ。雨の中、デパートの地下の、洋菓子和菓子店があまたひしめく中を歩きまわり、これぞ、という水ようかんを得て母のもとへ向かった。そして、無事に抹茶水ようかんを少年Kに渡せた、という知らせを母から受けたのが昨日のことである。5歳の少年が、和菓子をほおばってうれしそうにしている絵を思い浮かべると、私もうれしい。
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