館長の車で、出石にある永楽館という芝居小屋を見に行く。関西最古の芝居小屋とのこと。小屋の中のあまりのすばらしさに、城崎に来てからいちばんというほど顔がにやけてしまい、ついには頬が痛くなるほど、夢中になって見て回った。ひとりの芝居好きの人間が歴史を変えてきた例をまたも目撃できた嬉しさでいっぱいになる。しびれるほどの劇場の魔法。
コウノトリをまだ見ていない、というFの一言で、コウノトリの郷公園にも連れていっていただく。羽をちょっと切られて飼われているコウノトリ(羽が伸びたら飛んでいけるとのこと)に餌をやる時刻、空からゆうゆうと、野生のコウノトリが舞い降りてきた。聞きしにまさる、グライダーのような姿だった。白く、赤く、黒く、大きく、美しい。公園の入口にあった記念碑には、何かの折にここを訪れた皇族の方の和歌が刻まれていた。いろんなことを平等に讃えたり願ったりする、品行方正な歌だった。
城崎の町に戻り、お魚屋さんの奥さんにコーヒーショップで会ってから、Fと文学館に行った。私は二度目だが、Fは温泉ばかり入っていたので未だに文学館を訪れたことがなかった。さまざまな展示がある中で、城崎を訪れた文人たちの俳句や和歌、小説の抜粋などを見る。
しほらしよ山わけ衣春雨に 雫も花も匂ふたもとは 吉田兼好
浜坂の遠き砂丘の中にして 侘しき我を見出でつるかな 有島武郎
日没を円山川に見てもなほ 夜明けめきたり城の崎くれば 与謝野晶子
先ほどの皇族の人の歌に比べると、私欲や美意識が優先されているのが良い。
文学館を出て、お蕎麦屋さんの奥さんのところへ行く。こちらも取材。娘さんふたりも同席。3歳の少女の話は、脈絡も結論もないのがたいへんおもしろい。方言のにじむ語尾が愛らしい。
雨足がだんだん強まる。夕食はアンナさん&グルーニカさん姉妹にお呼ばれ。グルーニカさんの旦那さまであるD氏、1歳の娘さんも一緒に食卓をかこむ。旅人を食卓に招き、明るくもてなしてこの町の物語を語ってくれる姉妹の温かさは、今思い出しても身に余るしあわせである。
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