もう一人の男がいて、彼は、私が44歳で死んでしまいそうな気がすると言ったら狼狽し、俺を置いて死なないでほしい、と頼んできた。男の事務能力から言って、私の骨もろくに供養できないだろうから先に死ぬのは損かもな、私が死んでからも心配だな、とは思った。しかし問題は、彼の身体がたいへん丈夫なことであり、私がたいへんひ弱であることだ。
夜がいやで、毎晩おっかなびっくり薬を飲んで眠っている。若いころは、こんなおびえ方をするとは思っていなかった。騙し騙し生きられるものなら騙して日々を、夜を、やり過ごしたい。重く動きにくい体を感じながら、かつて職場に行けなくなったころの無力感を、毎朝新鮮に味わっている。
男は北陸の町へゆき、明日帰る、明日帰ると言い続けてまだ戻らない。
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