私が5歳のころ、母がマンションのベランダからエメラルドの指輪を落としたことがある。母はまだ弟を産む前で、指は細くかよわく、すべすべしていたのだった。スクエアカットに、テーパーカットダイヤを放射状に配置したシンプルな指輪で、子供ながらに私は母のその指輪が好きだった。「あっ」と、布団を干していた母が言ったのを、遊んでいた私は聴いた。母は、今の私より少ししか年上ではなかった。すぐに彼女が電話機を取るのを、私は見ていた。母が「もしもし、お姉ちゃま、助けて」というような電話をしてから30分後、伯母が車に乗ってやってきた。なぜ伯母が呼ばれたのか未だにわからないが、たぶん、小さなものを探す才能が伯母にはあったのだろうと思う。伯母はベランダの下の、草の生えた地面をかぎ回るようにして指輪を探し、とうとうそれを見つけた。私は今もエメラルドが好きだし、いつか、母がベランダから落としたあの指輪を譲り受けたい。
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