2015年5月4日月曜日

あいつがヒロイン

目をかけられることには慣れている。私も知らない私の能力を、さとく見つける男がたまにいて、声をかけては自分の領内に引き入れる。半信半疑についていく私も、やがてやりがいなんぞを見出してしまい、おろおろしながらも出来ることを出来るだけ時には出来る以上にやって、自分の何がよかったのか結局わからないまま搾取に遭い、求めるのは愛、となった頃にまぬけにも、男の中には本当の、別の、ヒロインがいたことを知る。いくつになっても繰り返す。男はいつも私のことを引き止めようとするけれど、それは私がなまじ頭、都合、聞き分けのよい女であるためで、追いかけられるより先にそこで待ち続けている安心感をあなたに与えられるからである。私よりも年下の、少し冷たくて、表情のあまりない女を、男たちは好む。頭、都合、聞き分けなどが多少よくても何にもならない。ミューズ、ファム・ファタル、勝手な名前をつけて男どもがすがるその女に、私は何にも勝らない。ミューズだのファム・ファタルだのは気まぐれなので、自分を好いた男には目もくれず、どうでもいいわ、と言いたげに去ってそれきり姿を現さない。現れなくてもそこにはいるので、男のことは忘れても、喋ったこともないミューズだのファム・ファタルだののことは、今もたまに考える。

0 件のコメント:

コメントを投稿