桜の木の下で死体を踏んだ気がしてぎょっとした。足下には何も無かった。わざわざ桜並木を見に行くのもいいが、遠くから見て、あれも桜だったのか、と気付くのもいい。花見歩きはひとりでしたい。花の下のピクニックは誰かと二人がいい。
港町のカフェに行った。レジャーシートを借りて目を閉じてみたけれど、意識が睡眠の水位から宙高く浮きすぎていて、引き下げることができなかった。芝生でまどろむサラリーマン風の男を見ている通りすがりの少女を見て気付いたことがあったので、遅くなってもやっぱり書かなければという気持ちを新たにできたのはよかった。
皿を100枚ほどとスプーンなどのカトラリーを150本ほど、それに鍋を7つ洗った。皿を前に使っていた人間の顔は知らないけれど、大量の食器にはそれぞれいくらか汚れが残っていた。表立って目には見えない。でも皿の裏だって汚れうるということに思いが至らない人間は、致命的に想像力が欠如していると思う。そんな物騒なことを考えて皿を洗いながら、外を眺めていた。隣ではY嬢がほうきで丁寧に部屋の隅を掃除していて、男たちは外で、とあるイベントのための看板設置をして盛り上がっていた。「男性陣、やる気が出て来たみたいですね」とY嬢が言うので「目に見える派手なことを一生懸命やってくれるのって何だかいいわよ」と言ってみた。換気扇も掃除したかったが、私が皿洗いのために水場を占領してしまっていたので、できなくて申し訳なかった。
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