2013年12月14日土曜日

地水火風

「私たち水のエレメンツだから」とNさんが言った。だから仲がいいの、すぐなじむの、と笑うNさんに、男たちは「何、水のエレメンツって」ときょとんとしていたが、生まれた星座のことを言っているのだと、私にはすぐ分かった。蟹座、蠍座、魚座は、12星座を4つのグループに分けたうちの"水の宮"に属するのである。「ちなみに双子座は風で、私は乙女座だから地のエレメンツです」と教えると彼らは「何ですぐ分かるの?」と訝しんだので、Nさんと二人で「女の子なら誰でも知ってますよ」と言った。もちろん人にもよるが、黄道12宮について、小耳にはさんだことくらいは、どんな女の子にでもあるのではないかと思う。

そういえば私は、集中すると意外とお酒が飲める、ということを思い出した。そんなわけで二軒目の立ち飲み屋で、理想の死に方、あるいは生き残り方について話した。F氏は『麻雀放浪記』の出目徳と言い、私は『永遠の都』の初江をあげた。ポルコ・ロッソもマダム・ジーナも捨てきれない、という話をしていたあたりでS氏が唐突に放った、『千と千尋の神隠し』に登場する大根の神様になりたい、という言葉は至言であった。

とにかくその日は朝から憂鬱で、滅びの風を召還すべくベッドの中でぶつぶつ呪文を唱えたりしていたのだが、そうもしていられない、と思って上半身を起こすころには、もう普通の人の活動開始時間から半日以上もずれてしまっていた。そのことにさらに憂鬱になり、もう今日は誰とも会える状態ではない、という思いと、いや、会いに行くべき人はきっとこの世界にいる、という壮大な葛藤に飲まれて、とにかく髪のブローは念入りにおこなっていたところ、港町のカフェに行くべき、という天啓がくだった。そうか、やはり港町か、と頭を抱えながら、天啓なら仕方ないと観念して、深緑のコートを着て駅へ向かったのだった。港町では、数人の目利きの女の子が「いい色ですね!」と言ってコートを褒めてくれたので、私はとても勇気づけられた。

S氏が、自転車の二人乗りをしている大人を見て「二人乗りって何かいいね」と言ったのを聞いて、確かにとてもいい、と思った。高校生や大学生よりも、いい年した大人が二人乗りしてるほうが、抜き差しならない感じがある。高校生が全員さわやかだとは思わないが、彼らには、込み入った感じはほとんどなくて基本的にはまっすぐだ。まっすぐであることと、さわやかであることを混同してはいけない。まあ、それは酔っぱらいの余談で、酔ってふらつきながら蛇行するほうが、この街を往来するのは楽しいし、大人になっても悲しいものは悲しい、という気持ちも素直に身にしみる。「自転車買えば」とその夜S氏に言われたけれど、私は自分でペダルをこいで進むより、サドルの後ろにすわって、目を閉じたり開けたりしていたい。そんなことを思っていたらS氏がライトで私に目つぶしを仕掛けてきたので、もう未来が見えなくなってしまった。

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