家のそばでは鳩が鳴く。朝からやたらと不穏な声で。不穏というのはちいさい頃の記憶のせいで、なじみのない家の和室に毎週泊まり、朝四時くらいに目がさめたときに、聞こえるのが鳩の声だったから。隣には母と生まれたばかりの妹がいたけれど、鳩の声は今でも好きでない。
母のことを考えていたら、母がレーズンパンを持って訪ねてきた。棚の上を指でこすり、埃を確かめているので私は「ママが姑じゃなくて、実の母でよかったわ」と思った。思っただけでなく、実際にも言った。
優しさは行きずりのものがいちばんよくて、つまり、いつだって何でも無いふうにして差し出せるものだけが本物なのだと思う。好かれたいとかつなぎとめたいと思って行うことはただの罠なので、そんなものには掛からないようにしたいし、自分でもいっさいやりたくない。
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