2014年1月26日日曜日

グッドラック

コートとお財布の色が同じですね、と受付の女が言った。ちょうど処方箋と領収書をもらったところで、私は虚をつかれてちょっと笑った。緑が好きなんです、と答えた。

赤い電車に乗って、飲み屋をはしごした。もっと年を取ったら私も妖怪になりたい、と、刺身をたべながら思った。肩に小さい猫を乗せて近所を歩くようなおばあさんになりたい。移動した先の店で頼んだ餃子がいつまでも来なくて、おばちゃんに聞いてみたら「もうすぐダヨー」と言うので、忘れてたな、と思った。でも「忘れてました」と言うより、もうすぐ、って言いながら騙し騙し生きていくしかないときもあるのかもしれない。騙し騙し、っていうくらいだから、その場は騙せるということなのだ。

いくつになっても煙草の灰がうまく落とせない、という歌の一節があって、さっきマニキュアを塗っているときに、それを思い出した。いくつになっても右手のマニキュアがうまく塗れない。煙草の灰なら拭き取ることもできるけれど、失敗したマニキュアはきたなく滲んで、いつまでも目に入るのが疎ましい。

何時間かかけて、ゆっくり化粧するのが好きである。朝起きて、洗顔して基礎化粧水を肌になじませ、化粧下地とファンデーションをすませる。手元に眉墨があればここで眉も描く。そのあと、お茶を飲んだり食事をしながら今日の予定にあわせて、出かける時間が近づいたら頬紅を入れてマスカラを塗る。気が向けばアイシャドウもする。肝心なのはくちびるで、ここが最後になる。私は口紅がとにかく好きなのだが、流行りのナチュラルなリップとか、グロスで艶をつくる、ということにはあまり興味が無くて、ただ自分の好きな赤みを自分のくちびるに乗せることに喜びを感じる。たとえばぱりっとしたスーツや新しい靴、帽子などで人が武装を行うように、口紅を引くということは、私の戦闘モードのスイッチが入るということなのだ。気の置けない人々と食事をするときは、あまり口紅を塗り直さない。でもちょっと意識が張りつめているときは、ことあるごとに、ひそかに赤を重ねている。

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