目が覚めて、動き出しが少し重たくなっている。小さな町に長く滞在して仕事をする時は、誰でもこうなる時期がくると、先月小豆島で話した作家が言っていた。いつものように基礎体温を測って記録する。低いのが続いていてなかなか上がらない。待つしかない。
明け方の雨がやんで、晴れ間がのぞいたのでアートセンターを出る。鴻の湯の駐車場に落ちていた赤い下着はなくなっていた。さすがに誰かが片付けたのだろう。駅向こうのパン屋をめざし、日傘をさして歩く。パン屋でウインナーパンとチョココロネを買って、すぐそばにあった階段から川の堤防によじのぼる。私の心の中にあるいちばん大きな川は東京の隅田川で、もちろん背景は永代橋、箱崎のIBM本社、スカイツリーなんかだ。こんなふうに山や田んぼや沢ガニや鷺のいるところではない。でも、川のほとりでパンを食べると安心するのは変わらない。川沿いの道が続くかぎり歩いていって、道の尽きるところまで行ってから引き返してもと来たように帰る。帰り道も、細い路地をたくさん入ってみたので、何倍も時間がかかった。
夜は柳湯へ。七つの外湯のうち、いちばん小さいのだが木の香りが豊かで、私はいちばん気に入っている。しかし今夜も、若い娘があまりにも多く入っていて、もうこの時間には来たくないと思うほど閉口した。いや、開口して小言のひとつでも言おうかと思うほどだった。柳湯はお湯が熱めなのだが、娘たちが「熱い熱い」と湯の中で暴れるので、かき回されてゆっくりつかっているこちらにも熱い波が来る。不本意だ。洗い場と脱衣所にあふれる娘たちの四肢を見て、何だか密集したシメジみたいだなと思う。
中華料理屋から焼き鳥屋、流しの唄うたいのやってくるバーを回って夜は更けた。こんな人生を送ることになるとは思ってもいなかった、と城崎に来てから何度も考えている。
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