2015年8月28日金曜日

ある日(レクチャー、花火)

フォトスタジオの三姉妹と指切りをしたために、Fは毎朝ラジオ体操を第一、第二までこなしたのち、極楽寺の子供座禅に参加してアートセンターに戻ってくる。次女(7)が、私は来ないのかと、毎朝Fに訊ねているらしい。

駅前のカフェにはすっかり通いつめている。代々城崎で暮らす、この店の姉妹に助けていただくことは大変多い。児童書のクレヨン王国シリーズに登場するレストラン「サザンクロス」のアンナとグルーニカ姉妹を思い出す。長々とお茶をしてから柳湯に行き、すっかり体の力が抜けた感じで自転車に乗ってアートセンターに帰る。

アートセンターで、早めの夕食の準備をしていると、芸術監督HO氏が登場した。私がHO氏を始めて知ったのは、子供の頃にやっていた土曜夜のニュース番組「ブロードキャスター」のコメンテーターとしてである。カタカナの名前が子供心に不思議だったし、男だろうけど女の人にも見える気がしたし、劇作家っていう職業も謎だし、HO氏はとにかく子供の私にとって印象深い人物だった。そのHO氏が今、私の真横で、アートセンターの面々と打合せもかねて食事をしていた。特に急いで箸を口に運んでいるわけでもないのに、いつのまにか食べ物が消え、皿が空になっていくのが不思議だった。速すぎて逆に止まって見える、みたいなことかもしれないと思った。

『光速・日本近代演劇史』講義は、最前列にすわって、聞き漏らすことなく学んだ。HO氏の話す速度は光のように、早く、狂いがなく、質疑応答の時間に至るまでタイムマネジメントは完璧だった。

今夜は、毎晩打ち上がっていた花火の最後の日。灯籠流しもおこなわれる。講義が終わったのが20:40頃だったので、すぐに自転車でアートセンターを飛び出した。浴衣の人々を追い越して、大谿川をめざす。一の湯に自転車を置いて、川下のほうまで歩いてゆく途中でアンナ・グルーニカ姉妹の姿を見つけた。川のない町にしか暮らしたことのない私は、灯籠流しが珍しい。ほとんどはもう川下の網にかかって回収されようとしているところだったけれど、もっと時間があったら、ゆっくり立ち止まって、水面をすべるたくさんの灯籠のひとつひとつを眺めたかった。やわらかい灯籠のあかりは、晩夏のさみしさをかき立てるようでもあり、なぐさめてくれるようでもある。

姉妹と別れ、Fとふたりで川下からさらに踏切を越えたところにある屋外のバーに向かった。ここからは、花火がよく見えるのだ。HO氏も何人かの人と一緒にバーに現れた。たこ焼き、ビール、野性的などぶろくなどで皆で2時間ほども話した。HO氏の言葉はこれまでも書物、雑誌などで見聞きしているが、彼が理論立てて、「どうして芸術が社会に必要なのか」とか「芸術はどのように意義深いのか」というように 「芸術のちから」を語る時が、私はいちばん感動する。

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