2013年10月26日土曜日

町が剥離する

「好きにすればいいんですよ、二週間海外に行って逐一ブログに上げたりしなければね。しないでしょ?」と、女が聞くので、そんなことしません、と答えた。家に閉じこもっていなくてもいい、と言ってくれてほっとした。待合室には初診の男が来ていて、事務の女の人に「前の病院でもらった薬がねえ、効いてる気がしないんですよ」と10000回くらい繰り返していた。女の人は困って「先生に言ってみてください」と丁寧に応対していた。男はしつこく「いや、あのね、効いてる気がしないもんですから」と言って、引き下がる様子がなかった。

帰りの地下鉄では本を開いたが、地下鉄の駅名のカラフルな看板の光が窓から入って、紙にちらちら映るのがうっとうしくて、まともに読めなかった。7年もこの電車に乗っているのに、こんな光が気になるのは困る。茅場町という駅が、自分の身体からとても遠いところに行ってしまって、どうやってもくっつかない。

母校の演劇部のコーチをしている同級生から、最近の高校生と教師と保護者の話をあれこれ聞いた。聞きながら私は、どうやったら母校に講演に行けるくらい偉くなれるだろう、とぼんやり考えていた。女子中学生や女子高校生に火をつけて、一生母校に出入り禁止になるような熱っぽいスピーチをしたい。シェイクスピアの喜劇戯曲から「寝る」という単語が含まれる台詞だけを丹念にカットするような学校だもの。追放されるくらい簡単なことだろうと思う。
 
これからの人生の方がずっと長いのよ、と母に諭されたけれど、3年前のことを思い出しながら、あのときから今までを100回繰り返したら300年だな、意外とすぐじゃん、と思っている。

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