靴をはき、立ち上がるときにドアノブに頭をしたたかに打ちつけた。目から星が出る、とはよく言ったもので、そのままうずくまってひとりで騒ぎまくり、髪をかき乱して痛さに耽った。痛いことよりも、そこにあるとわかっているドアノブに頭を打つような、自分の空間認識の甘さへの苛立ちと悲しみが渦巻いた。だいたい私は、机の下に落としたものを拾って立ち上がるときに机の天板に頭を打ったり、観音開きの食器棚にものをしまって閉めるときに扉で頭を打ったり、冷蔵庫と冷凍庫の扉を間違えて勢いよく開けて頭を打ったりする。車の駐車も下手だし、さっきも手の甲をみずから洗濯機に叩き付けてあざを作ったし、自分で口の中を噛むので口内炎は治るそばから出来てゆく。
そういえば、よくけがもするのだった。先ほども、キッチンの洗いかごの中の包丁を取ろうとして人差し指をさくっと切った。ばんそうこうはあれからまだ買っていなかったので(※こちらの日記参照)今度こそもうない、と思ったが、リュックサックの外ポケットにもう一枚入っていた気がしたので見てみたら、あったので助かった。
個人商店とは思えないほど遅くまでやっている近所の魚屋で、鯵の刺身を買った。そのままたべるのも気乗りがしなかったので、寿司を握ってみようと思いながら帰宅したところ、先ほどの人差し指のけがをして握る練習はできなかった。白米を血で汚すわけにはいかないからである。あきらめきれなかったのでとりあえず米に適量の酢を混ぜた。そしてスプーンを駆使して酢飯をこね、鯵の寿司をつくった。寿司というより、丸くした酢飯に鯵を乗せた料理だった。こんなに愚かしい状態で寿司を握る心情を表した演劇がこの世にあるだろうか。でもそういうものに説得力を持たせてくれるのがきっと演出家という人々なのだろう、お願いします、もう私はだめです、と思いながら、夕方から漬けこんでおいたポークジンジャーを半分焼いて、その丸くした酢飯に鯵を乗せた料理をたべた。
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