明け方、携帯電話を触っていたら壁とベッドの隙間に落としてしまった。床に携帯電話が叩きつけられた音がして、面倒なことになった、と思った。手を差し入れてみたが、到底届かなかったうえに、どこに落ちているかもわからない状態だった。つりそうになるまで、ちからの限り手を伸ばしてみたがそれでも掴めなかった。仕方ないのでごそごそ起き上がりマットレスを動かしたところ、落ちている場所は確認できたが、絶対に自分のちからでは拾えない場所だということがわかっただけだった。すぐ拾えるところには、いつから落ちていたのかもわからないホッカイロの死骸があって、そのだらしない光景に絶望した。ホッカイロの死骸はこの冬に触ったもののうちで、もっとも虚しい冷たさだった。それから二秒考えて、柄の長いクイックルワイパー(床用)を洗面所から持ってきた。いつもは冷蔵庫の横にあるのだが、昨日冷蔵庫の横から洗面所まですいすい掃除してそのまま洗面台の横に放置したのだ。寝室の床に這いつくばり、クイックルワイパーの柄をベッドの下に差し入れ、携帯電話を引っ掛けてたぐり寄せた。うまくいって「よし」と思ったけれど、所詮クイックルワイパーでベッドの下を探るみにくい姿をさらしていることがその喜びを押しとどめた。何より時刻は午前五時であり、そんな時間にこんなことをするはめになった自分にうんざりしていた。クイックルワイパーはそのままベッドの下に放置した。私の部屋が散らかっているのは、ものを定位置に戻さないせいだ、と人に指摘されたことは今思い出した。
そんな一日の始まりで、朝から夕方まで雨は強くなる一方で、原宿で演劇も観たことだし、恋をしながら長く生きることについてたくさん考えた。この人はきっと女からこういうことを言われてきたに違いない、と思うようなことは、自分はその人のことが好きだと言っているに等しいので悔しい。ずいぶん愛してしまっていることを確認するより、それを忘れるためのセックスがこの世にあるといい。そのときはぜひ、私の想像力より私の身体を愛してほしい。
めがねのふちが黒くてくっきりした男には注意しなければならない。黒いふちは彼が世界から隔てられていることを装う証だが、その枷に負けて、中途半端なフェティシズムに拘泥する人はつまらないし、それを言葉にもできない人はもっといやだ。だいたい、黒いめがねのふちを受け止められるかどうかは、彼の輪郭がすでに物語っているものだし、黒縁に対して分不相応な人のことは、私は居酒屋に置き去りにして21時半くらいに帰る。
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