同級生に画家がいる。今は行方知れずとされていて、ときどき私にだけ連絡をくれる。母校の集まりで彼女のことが話題に上ることがあっても、私はそのことは秘密にしている。彼女に昔、「私って何色?」と聞いたことがある。きわめて少女趣味な、たわいもない会話だと笑われてもかまわない。でもそのとき彼女が即答してくれたのは「色のない色。でも、透明って意味じゃないよ」ということで、そんなことを思い出してまどろみながら毛布を引きあげ、そろそろウールのセーターを出そう、などと考えたりする。
そんなだから、寝つけないのと、ねむりすぎるのを繰り返す。カーテンもあけられなくて家から一歩も出られないし、長い長い夢を見る。もともとそんなことは珍しいので、起きて懸命にメモ帳に書きつける。私たちは映画じゃないから、ラストシーンがどこにもない。
乗った船には、職場の人々がいて、彼らは一様に私を睨め付けてくるのだった。その瞳の圧力に胸を押されるような思いがして私は船の中から出られなくて、中にある食堂や喫茶室をぐるぐる回りながら、人を探して走った。誰を探していたのかはわからない。戻った部屋では皆がすごろくに興じてダンスをしていて、私はそれにちっとも入れなくて途方にくれた。ダンスなら私のほうがずっと好きなのに、と悔しがっていたような気もする。
異様な量の髪が抜けて、排水溝に流れてゆくのをただ眺めていた。あまりに黒々として多すぎるので、冷静に、全部は私の髪じゃないかもしれない、とも考えた。
誘われて、自転車を引いて坂を上った。緑のきれいな公園に出る。道路が視界の下にひらけるくらいの小高い土地のようだ。昭和記念公園の、あのエリアに似ている。いつのまにか自転車のサドルに乗っている。私は、うまくタイヤの横あたりに足を引っかけて後ろに立ちたかったのだけど、そうもいかなかったらしい。二人乗りだと私は前が見えないから、どこに飛んで行くのかがわからない。それがとてもドラマティックだと思って、そんなことを考える自分は結局どこにいても自分すぎて、疎ましいほどに安心だ。風を切って坂を下る。森の長いトンネルを抜ける。遠くに出口の光があって、振り返っても入口に同じ光が見えて、でもそれは本当に同じ光なのだろうか、と、たぶん、私は考えていた。
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