2016年7月7日木曜日

ある日(新幹線、雷)

昨日の夜早めに休んだので朝5時半に目がさめて、アロマオイルと無水エタノール、精製水を混ぜてルームスプレーを3種類つくり、旅に備えた。 荷造りはもう済ませてあった。冷蔵庫に保管していたものを最後に袋に詰め、家を出た。

東京の人は冷たいなどという言説がある。駅の階段で人が大荷物を引き上げるのに手こずっていたり、新幹線の棚にトランクを載せるのに失敗したりしても助けないのだという。でもそれは東京の人ではなく、新横浜の人々も京都の人々もそうだったので、結局日本の人はみな冷たく、東京は日本中の人間の寄り集まりなので結果的に東京だけが責められているのではないかと思う。棚に載せるのにトランクがあまりに重いので、私は気がたって、トランクを隣で悠長に新聞を読んでいる男の頭の上に落としそうになったが、人が冷たいからといって自分も悪いおこないとして良いわけはないのだから、思いとどまった。私はぎりぎりで新幹線に飛び乗ったので食べものを何も持っていなかったけれど、隣の男はからあげとおにぎりを食べ始めたのでまた不愉快になった。車内販売を一度逃してしまい、二度目に通りがかったのを呼び止めてサンドイッチを買い求めた。5個入り(ハム、卵、野菜、ツナ、ポテト)と2個入り(ハム、卵)があって、おなかはすいていたけれど5個入りだと一度には食べきれないと思ったので、2個入りを選んだ。それで正解だった。新幹線では一睡もできなかった。新幹線は満席で、息苦しかったので、持ってきたルームスプレーをコットンに少し吹き、ハンカチにくるんで顔にずっと押しあてていた。京都からの特急に乗りかえ、和田山を過ぎたあたりで安心して少しうたた寝した。

城崎国際アートセンターに到着すると、ひろいエントランスで子どもたちが走り回って遊んでいた。帽子を隠されたり、飛びかかられたりして、標的になっているのはFであった。Fが楽しげに子どもと遊ぶのなんて、城崎でしか見られない光景である。子どもたちなりに2年目の来訪者を歓迎しているのだった。多少やり方は手荒にしても。

自転車を借りて駅前に向かう途中、フォトスタジオの次女とすれ違った。遠くから手を振って「いつ来たのー」と言うので「さっきの電車だよ」と答えた。「あっそう」と笑顔で返事をするのが可愛らしい。編み込みの髪型を褒めると、次女も私のショートカットをすてきだねと言ってくれた。

アートセンター滞在者は、外湯の割引証を与えられるのだが、昨年と比べて、外湯の受付で割引証を出した時の感じが、あきらかに変わっている。認知が確実に高まっている感じ。そしてそれが、好意とまではいかなくとも自然に人々の中に存在している感じ。外湯をふたつ回って、共通して感じたことなので間違ってはいないと思う。自転車でちょっと走っただけでも、小さな工事を施したような場所がいくつもあって、観光地の施設にとって外観を取り替えたりするのは、来客のために家を掃除をするようなものなのだなと思った。

夜は酒場を飲みあるき、館長の新築の家も訪ねた。23時の閉館まぎわに入った御所の湯は、露天風呂がとてもうつくしい場所である。今、城崎はいちばん狭間の閑散期であり、露天風呂でひとり歌をうたうことなどもできた。雷が、音も立てずに閃くのを二度三度見た。初夏の夜だった。室内の明るい光が反射して、湯の底の私の脚に、亀甲のような模様をつくるのを眺めていた。

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