2016年7月27日水曜日

ある日(花壇、無政府)

朝、観光案内所で軍手をもらって、花壇の草取りをした。夕方以降にまた作業しようと思って、ほどほどでやめた。昼間は、まさに、忙中閑ありといったのんびりさで過ごした。

いつおさんという人がいて、若い移住者なのだが、毎日、昼間はアイスコーヒーを、夕方はビールを飲みに来てくれる。もはや、いつおさんがドアを開けて入ってきても「客」とはあまり思わず「いつおさんだな」と思って氷をカップに入れ、アイスコーヒーを注ぎ始める自分がいる。閉店してから、私とマスターが花壇を掘り起こす作業をそばでいつおさんが見ていてくれた。オリーブの害虫についての話などをする。私は、去年小豆島で買ったオリーブの苗木を自分の家で育てているのだけど、この前、葉を見たら害虫(ヘリグロテントウノミハムシ)にめためたに食べられていて、憤慨したのだった。それを聞いていつおさんは「そういえばオリーブアナアキゾウムシって、日本にしかいないらしいよ」と言い出した。オリーブアナアキゾウムシとは、オリーブに穴をあけるゾウムシである。それから「始めに聞いた時、俺、オリーブ ”アナーキー” ゾウムシだと思ったんだよね」と言った。アナーキーゾウムシとは、無政府状態のゾウムシであろうか。「かっこいい! と思ったんだけど、島の人と話しててどうも違うなと思って気がついた。でもそれ以来、オリーブアナアキゾウムシは俺の中で、位の高い虫になったわけ」。いつおさんはそんなことを喋りながら、ミントやローズマリーを挿し木するために、何本か水に浸けてくれた。いつおさんも畑を持っていて、植物には詳しいのである。その他は、私がタイム(多年草なので大きくなる)の古株を力を込めて引っこ抜くさまを、おもしろがってただ眺めていたりした。

マスターは日没近くまでかかって、花壇を更地にした。そこへ畑の帝王がやってきて、きゅうりとトマト、いんげん豆をくれた。マスターが「花壇楽しい。土がいとしい」と言えば帝王は「せやろ、俺の畑への愛も、わかるやろ」と説くので、マスターはなおさら「わかるわ」とうなずくのだった。その横で、ハーブの植え込みを抜かれて居場所をなくした蜘蛛が、上階のベランダに糸をひっかけ、ふわりと飛ぶようにあがっていくのを見た。後ろからは夕陽が差していて、細い糸をたぐる蜘蛛はまるで天国へ行くみたいだった。

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