2016年7月25日月曜日

ある日(とんび)

もっしゃんと呼ばれる人がいる。ニックネームである。島の水道局の人だが、みんながもっしゃんと呼んで慕っている。流れ者のアーティストにとって、かたぎの味方がどれほど心強いかということを私は島で学んだ。仕事はかたぎで、心が無頼というのが最高と思う。それで、先日もっしゃん夫人に初めてお目にかかった。夫人も、所有している山から木材を切り出してアーティストに提供したりする実力者である。アーティストと住民が、お互いの存在で、物心ともに充実するのがいい。小豆島のおでんの具材についてご教授いただく。このあたりのおでんには必ず平たいはんぺんが入っているらしいのだが、何という名称だったか失念した。

客の少ない時間、カフェのテラスに出てとんびが飛んでいくのを見ている。とんびは羽ばたかない。大きな羽をひろげたまま、滑空していく。城崎温泉で、コウノトリと鷺の見分け方として「コウノトリは羽をひろげて動かさずに滑空しますが、鷺はバタバタ羽ばたくのでわかります」と言われたのを思い出す。城崎の子どもたちのことを思い出して、小豆島でも子どもの友だちができたらいいなあと思う。

畑の帝王がまた来てくれて、段ボールでできていた喫茶のメニュー表を板でつくりなおしてくれた。大工なのか料理人なのか野菜育て人なのかわからない彼は、とにかく手先が器用で細やかで何でもできる。そして、とても日焼けしている。彼は私の生っ白い顔を見て「白い人は大変やな」と言った。大人になっても日焼けして皮むけることあるの、と訊ねると「むけよる。でもむいても黒いで。むける頃には下の皮膚がもう焼けとるからな」と、自信満々で答えてくれた。心、身体、技術をぜんぶ使うこと。島に来た目的を、口の中でぼそぼそ唱える。そうこうしているうちに、畑の帝王は「あ、港の方にポケモンおるらしいでー、つかまえやー」と新しい流行ゲームの情報をこだまのように響かせながら、喫茶から去っていった。

喫茶店では、余りもので食事をつくる。野菜がたくさんあるので炒めて、お米かそうめんと合わせ、余っている生ハムをだいたいどんな味付けの料理にも乗せる。

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