Fが島に来て、三ノ宮にスーツケースをまるごと忘れてきたというので、午前、喫茶の暇な時間に土庄のファッションセンターまで連れていった。スーツケースを置き忘れるというのは私には理解ができなかったけれど、三ノ宮の港に電話して、保管の手配をした。ファッションセンターでは、運転手数料としてワンピースを一着買ってもらった。よほど申し訳なく思っていたのか、そのあとオリーブオイルのお店に寄ったら、グリーンレモンオリーブオイルもプレゼントしてくれた。
夕方、坂手に住んでいる画家をFに紹介するため、喫茶に来てもらった。Fは9月から2か月デュッセルドルフに滞在して作品をつくることになっていて、画家も同じ時期に同じ町へ留学が決まっている。ふたりはコーヒーフロートとビールを挟んで、会話がだいぶ弾んだようで良かった。喫茶はそのまま夜間営業に流れ、ゆったりした時間を過ごした。
その夜は、ままごとが行うきもだめしのリハーサルの日で、町の人が大勢来ていた。にわかに沸き立つ観光案内所の様子を見て、きーやんが「驚かす側を驚かしに行こかな」と言い始めた。「紐持って、蛇だぞ、つってな」と笑っている。そばで煙草を吸っていた画家は、最近龍の絵を描いているためか、蛇の話に興味を示した。蛇は湿気を嫌うそうだ。きーやんは言った。「道で蛇を見たらな、3日後に雨降るで」。へえ、つばめみたい、と画家は喜んだ。
夜遅く、喫茶を閉めてから、エリエス荘の食堂で劇作家たちと少しお酒を飲み、話した。劇作家の同期である照明家(聡明で料理上手である)が持ってきた海苔の缶は3つあって、それぞれに「塩」「味」「焼」と書いてあった。塩海苔、味海苔、焼海苔、という意味で、見ただけでそれはもちろんわかる。意味はわかるけど、くくり方の単位に違和感があるな、と考えていたところ、劇作家も同じように感じていたらしかった。だって塩って味の部分集合ですもんね、と私が言うと「パトカー・自動車・鉄、って並べて書いてあるのと同じぐらい、バラバラで違和感がある」と劇作家が答えたので、さすがのたとえだな、うまいな、と感動した。
夜、人間が光で起きて活動を始める仕組みについて、話題にのぼった。日の出日の入りや、月の出月の入りの他に、予想のできる天候事情ってあるか? と考えて、 ない、という結論になった。だからもし大雨や大風が的確に予想できたり、コントロールできたら、それを使った演劇も生まれるかもしれない。そして、もし太陽がふたつあったら、と目を輝かせて語る劇作家を見て、この人の宇宙への探究心は無限なのだなあ、としみじみ思った。
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