2016年8月26日金曜日

ある日(日常、船)

今季3度目の夜行フェリーで、坂手に到着した。昨夜は夜半に山陽本線に乗り、三ノ宮まで戻った。こんなに疲労困憊したのは4年ぶり、と思うほど疲れ、車内の座席ではぐったり横になっていた。無事にフェリーに乗り込み、体を横たえるまではがんばった。この頃は、船がエンジンをかける音がわかるようになってきている。急な変化に思えるけれど、経験が緩やかに堆積して、水面に顔を出したのだろう。船は静かに、暗い海を進む。

喫茶に帰って、また働き始めた。喫茶は一日のんびりしていた。マスターが急に壁をばん、とたたいたので顔を上げると、「しんじゃった、虫」と、少し悲しげに言うのが聞こえた。パフォーマンスの販売は、劇団にかかわる全員が空間をうまく共有し、閉じることなく、高い地点に到達している。そういえば坂手のきみちゃんは、先週末から体調を崩しているらしく、最近顔を見せない。

夜、劇団のメンバーたちがエントランスで歌の稽古をしていた。朝日が、ギターを持ってその輪に加わっていた。メンバーたちの声を聞きながら、エリエス荘の外に出て、ひとりで歌うことにした。ボラードに腰かけて、小さな声で2曲か3曲ほども歌った頃、暗い小島の向こうをフェリーが横切っていくのを見た。あの航路はジャンボフェリーではなく、高松の方角に向かっていく別の船だ。そういうことも、私はもうわかる。右手に見えている陸地は志度の岬だということも。船でしか行けない場所があると、身体の奥底で実感している。今では、バスと高速船とフェリーを乗り継いだ移動の計画だって訳もなく練ることができる。 海の上を滑るように移動する船を見て美しいといちいち感じるほどには、まだまだ非日常の風景だけれど。

今朝、フェリーの展望台から見た、だんだんと近づいてくる坂手の風景は、忘れないでおこうと思う。私が港を懐かしみ、帰ってきた、と思う時、港もまた私を懐かしく迎えてくれていると信じてみる。

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