私のいとこの子は電車が大好きだけど、もしかして島の子どもは、電車じゃなくて船を好きになったりするのかな? という可能性に、港にジャンボフェリーが着いた瞬間、思い至った。でも、宇宙船や飛行機に憧れる子どももいるわけだし、普段見られない電車に恋いこがれる子がいても、いいなと思う。
夕方、三ノ宮からやってきたフェリーが入港してから、また出ていくまでをずっと見ていた。喫茶からは、客が徒歩で降りてくるところはあまり見えないから、いつもタラップから吐き出されて流れる車と、順番を待って吸い込まれてゆく車を眺める。束の間、地面に橋を架けてまたそれを丁寧にしまって、船は行ってしまう。タラップがしまわれるところがよく見えなかったので、ベランダの椅子の上に立った。誰かに、不審な女と思われるかもしれなかったけれど、船をよく見たい気持ちの方が強かった。それで、船尾には、船籍の旗が翻っていることに気がついた。日の丸。愛国主義にしろ、啓蒙活動にしろ、情熱のオリンピックにしろ、とかく煽動的な運動にもちいられる旗しかこのごろ見ていなかったから、純粋に「この船は日本の船」というしるしとしての意味、それ以上でもそれ以下でもない国旗を見て、ひとつまた気持ちが楽になった。
昔、防衛大学校にゼミの一環で行った時、同い年の学生たちが信号旗で交信しあうのを見た。旗ひとつひとつにアルファベットが割り振られており、それを読むことでどこの船か、航海の目的は何なのかがわかる。海の上では、船籍がわかった方がもちろん便利だ。危ないし、衝突は避けなければならない。命がけである。それが当たり前だ。何度も言うけれど、それ以上でもそれ以下でもない。考えているうちに、よぶんな苛立ちや嫌悪が削ぎおとされていく。煙草をくわえて、火をつける。フェリーが出港すると、風向きはいつも変わる。
暗くなってから、ぽつぽつ雨が降ってきた。明日の夜の公演に直撃するのは、避けられた。バーベキューが昨日でよかった。そのかわり、喫茶の売り上げは芳しくなかった。
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