2016年8月26日金曜日

小休止Ⅲ

朝の坂手をひとまわりしてから、7:30のフェリーに乗った。ゆうべにぎやかだった坂手の道は、ぽっかり明るく静かだった。散歩をしている人もいなかった。夜には時々、おしゃべりをしに出歩いているおばあちゃんなども見かける。カートを押し押しうつむいて歩く、うつろな人にも会うのだけれど。

明石大橋を越えて、もうすぐ神戸に着くという頃になって、やっぱり展望台から海を見ておこうと思った。展望台には先客がいた。カップルが一組、それから女優のSI嬢だった。私は昼間のジャンボフェリーでは、モナカアイス(自動販売機で売っている)を買って食べるのをならいとしているので、この時もアイスを手に持って階段をのぼっていった。SI嬢は私の持っているアイスを見て、いいですね、と笑ってくれた。空は快晴で、さっきまで聞いていた歌などうたいながら、そのまま海を見ていた。白く水面に残る航路の跡の向こうに、島があるのだなと思った。後ろの方で、カメラのシャッターを切る音が聞こえた。

降りる時に、京都の大女優MJ嬢と行き会った。そのまま3人で京都まで連れ立って行くこととする。MJ嬢がカフェオレを飲みたい、と言うのでセブンイレブンに寄る。私はバターロールと麦茶を買った。京都までの電車は遅れていて、電車を待っている間、初めてゆっくり3人で会話をかわした。島では演劇の準備があったし、夜になれば酒が入るし、なかなか余裕がなかったのだ。京都に着く頃、MJ嬢はカフェオレ気持ちわるい、もういらない、と美しい京都のアクセントで言った。故郷に戻ると、血液が入れ替わるように、体内の言葉も巡るのだろう。MJ嬢は、出町柳にある豆大福の名店「ふたば」が、今日は伊勢丹に出店しているから行こうかな、と迷っていた。でもこんな暑い日に大福食べたくないな、と袖なく結論づけた。いつでも「ふたば」の豆大福に手の届く距離にいる人の、余裕を感じた。MJ嬢はそのあと丁寧に、おすすめの銭湯と、そこに行くための市営バスの番号を教えてくれて、実家へ戻っていった。私は、SI嬢とふたりでラーメンを食べて別れ、銀行や郵便局で用事をすませた。

下鴨の劇場で、Fが、政治と芸術の話をするための集まりを企画しているので、夜はそれに参加した。打ち上げにも行ったけれど、私は途中で島に帰らなければいけなかったからジンジャーエールだけ飲むことにした。疲れていたし、今の私の言うことは別の銀河の言語みたいに響きそうでうまく話せないと思ったので、店ではずっと黙って、考えに耽っていた。隣に座ってくれた子も、そのことを了解してくれたようだった。だから来ていた人とは喋らなかったけど、顔を見て、微笑んで、うなずいてきた。違う星に住む人にも、そうやって気持ちを伝えることはできるだろうから。

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